認定こども園と義務教育学校が一体となり、0〜15歳のシームレスな学びを目指す「学び舎 ゆめの森」。
その特色ある学びのひとつ、「未来デザインの時間」の授業づくりを支える滝 康成デザイナー山口 真緒 探究コーディネーター(株式会社Oriai)は、子どもたちの“興味”を起点に、探究する力を育む仕組みづくりに挑戦し続けています。

子どもたち一人ひとりの「好き」や興味関心を引き出し、「やってみたい」を受け止めて尊重しながら体験へとつなげ、「熱中する探究者」の成長を加速させる。「未来デザインの時間」を“デザイン”するお二人に、そのプロセスについてお話を伺いました。

※「学び舎 ゆめの森」では義務教育学校の教員を「デザイナー」と呼んでいます。また、株式会社Oriaiの山口さんは「探究コーディネーター」として、外部専門家や地域の方と学校をつなぎ、より探究活動を深めていく環境を構築する役割を担っています。外部専門家や地域の方が学びに関わる場合も、「デザイナー」と同じ“伴走者”として学びに参加しています。

プロフィール

滝 康成デザイナー(義務教育課程・7学年担当/未来デザイン担当)
いわき市出身。郡山市立郡山第三中学校での勤務を経て、学び舎ゆめの森へ着任。担当教科は理科。
7学年(中学1年)の担当を務めながら、「未来デザインの時間」の全体統括を担い、主に後期生の授業運営にも関わる。
教員が集まって日々の関わりを確認するデザイナー研修では、「未来デザインの時間」で大切にしたい考え方や指導方針について、教員同士の確認や調整を行う役割を担っている。中学校から現在まで卓球に取り組み、大熊町で卓球サークルを立ち上げるなど、スポーツを通じた地域との関わりにも目を向けている。

山口 真緒(株式会社Oriai|探究コーディネーター)
大学在学中に4年間、学童保育でアルバイトを経験し、児童支援に関心をもつ。株式会社Oriaiに入社し、同時に大熊町へ移住。令和6年度から、学び舎ゆめの森のデザイナー(教職員)と机を並べて日々連携しながら、「未来デザインの時間」の授業設計や記録、探究活動に必要な人材・場所・モノをつなぐ活動など、探究が広がり続けるよう“舞台を整える”基盤づくりを担う存在。「先生ではないけれど、大熊町に住む地域の人でもあるので、子どもたちが何か頼りたいときに頼れる一人でいたい」という想いを持つ。児童生徒からは「まお」と呼ばれている。

子どもの「好き」や興味関心から始まる学び

―学び舎ゆめの森の特色ある学びの一つ「未来デザインの時間」とは、どんな学びなのでしょうか?

滝デザイナー:ひと言で言うと、子どもたちの「やりたい」という興味を起点とした探究の時間です。テーマを縛らず、子どもたち自身が「やってみたい」ことに没頭できる場として、週1回の時間を使って行っています。

「未来デザインの時間」は、学習指導要領では「総合的な学習の時間」にあたります。子どもたちが興味のあることを探究することが、やがて個人と社会をつなげていく「子どもたち自身が未来を創る時間」という意味を込めて、「未来デザインの時間」と呼んでいます。

山口さん:学年ごとに同じことをやるのではなく、一人ひとりの興味や状態に合わせて進めていく学び、というイメージです。ゆめの森では、探究のフェーズを大きく「探索期」、「没頭期」、「創造期」と分けていますが、学年はあくまで目安で、一人ひとりの段階に応じて関わり方やサポートの仕方を変えています。

学期の初めに、「興味のあること」「やりたいこと」を挙げるワークショップからスタートし、明確に「やりたいこと」がある子も、少しフワフワしながらテーマを探していく子もいます。「探索期」の子が多い低学年は、数ヶ月に一度、学年共通で校外学習やゲストをお呼びしての学びなど「出会い」の機会を作ったり、高学年は個別に探究する時間を多くしたりと、工夫しながら進めています。

滝デザイナー:実はこの「探索期」「没頭期」「創造期」の区分けやカリキュラム全体のデザインも、「未来デザインの時間」担当のデザイナーチームと、探究コーディネーターのOriaiさんとで何度も話し合って創り上げました。今も毎週進捗を踏まえて話し合い、カリキュラムを一緒に磨き続けています。

未来デザインの時間」とは

子ども一人ひとりの興味や関心を起点に、探究のプロセスを重ねていく学びです。
探索・没頭・創造という段階を行き来しながら、それぞれが個別のテーマに没頭し、「熱中する探究者」として育っていくこと。その積み重ねが、やがて人や地域との関わりを生み、持続可能な地域の実現へとつながっていく、という考え方を土台にしています。

探究を「見守り、つなげる」

―「未来デザインの時間」の中で、大切にしていることはなんですか?

滝デザイナー:この時間で一番大事にしているのは、子どもたちの「やりたい」という気持ちを、最大限に尊重することです。また、何よりもまずは「やってみる」ことが大切だと思っているので、どんなことでも、まずはやらせてみるようにしています。
子どもが中心なので、大人は関わりすぎないことも意識しています。先回りして答えを用意したり、大人の都合で誘導するのではなく、そばで様子を見ながら「見守る」という関わり方が近いと思っています。私も子どもの関心に合わせて、例えば「昆虫の標本を作りたい」という子と昆虫採集に行って標本を作ったり、一緒に手を動かすこともあるんです。

山口さん:自分と一緒に同じことをやってくれる大人がいるっていうのは、たぶんすごい安心感じゃないかな、と。

私は、日々の何気ない会話の中で出てくる「これが好き」「楽しい」といった言葉や「得意なこと」を、とにかく覚えておくことを意識しています。私はデザイナー(教員)ではなく「伴走者」の立場なので、それを活かしてあえて子どもと対等な立場でいるようにしています。遊んだり話したりする中で出てくる「好き」を覚えておくと、例えば少し手が止まっていたり探究が進んでいない時に、「これ好きって言ってたよね、やってみる?」とか「この間言っていたテーマで、得意な地域の方がいたよ」と声をかけることができます。 取り組みテーマを少し変えたり、そばで見守る大人が変わるだけで、一気にハマることもあります

人の数だけ、テーマがある『未来デザイン』

―「未来デザインの時間」の授業の現場は、どのように進んでいくのでしょうか?

滝デザイナー:週1回の授業時間だけでは足りず、昼休みや放課後に探究し続けている子もいますね。自分の好きなことに熱中・没頭する姿からは、普段は感じられない熱量を感じます

学期の初めには、全体でワークシートをもとに計画を立てますが、その後の活動内容は本当にさまざまです。創作工房でレジンや3Dプリンターを使った作品を作っている子もいれば、海釣りに行くために地域の方を訪問して、一緒に釣り道具を作っている子、アリーナで一輪車に熱心に取り組んでいる子、職員室の前でデザイナーとプログラミングに没頭している子がいたりと、活動場所も学校内外に散らばっています

山口さん:テーマが多岐に渡るので、美術担当のデザイナーやヘルスデザイナー(養護教諭)の方など含めて、ほぼ全てのデザイナーに協力してもらいながら進めています
週に1回、各期の担当デザイナーで集まって、児童生徒1人ひとりの探究活動の進捗について共有し、支援方法を検討する時間を確保しています。一人ひとりの活動内容が異なるからこそ、このような支援体制を整えることが大切だと感じます。

そして「探索期」(主に3〜4年生)では、新しい興味に触れることを「出会い」と呼び、学年ごとや、興味が近い子達を集めて少しまとまった人数でプログラミングの講座を開くなど、意図的に興味の幅を広げることも実施しています。
「没頭期」や「創造期」になると、その出会いがより深いものになっていきます。地域の方のところへ行ったり、実際の現場を見に行く機会も多くあります。

学校の外へ広がっていく学び

ー「未来デザインの時間」に関わる中で、子どもたちの変化や、印象に残っている場面はありますか。

滝デザイナー:子どもたちと関わっていると、私も知らないことを教えてもらう場面がたくさんあります
飛行機が好きで、航空機のレーダーを表示するウェブサイトを、「この飛行機は、今この空港を出て、何時ごろにここに着くんだよね」とずっと見ている子がいたりして、「そんな世界があるんだ」と、こちらが驚かされることもありますね。

山口さん:「未来デザインの時間」がきっかけで地域の方と子どもがつながって、その方の家によく遊びに行くようになったり、親御さんも含めて交流が生まれたという話も聞きました。
学校の外につながりが増えていくきっかけになっているのは、嬉しいですね。

滝デザイナー:また先日、大熊町の議場で行われた「子ども議会」で、まちづくりやスマートシティ構想について探究し続けてきた8年生の生徒が、実際の町の課題と結びつけて質問や提案をする機会がありました。行政の大人たちと向き合いながら、自分の言葉で問いを投げかけ、意見を交わしていた場面は、探究してきたことが社会と重なり合った瞬間でした。とても大きなエネルギーを感じましたね。

山口さん:子ども一人ひとり違うように、大人もそれぞれ、得意なことが全く違うんだな、と気づいて。デザイナーや地域の方も含めて、誰と誰を組み合わせるかによって、子どもの探究がグンと進むことがあります。

例えば、活動テーマを共に考え、問いを深めることが得意なデザイナーもいれば、子どもと並んで手を動かしながらものづくりをともに進めるデザイナーもいる。また、発表の構成や伝え方を考えることが得意なデザイナーもいます。デザイナーの皆さんが「何が好きか」「何が得意か」をもっとキャッチできれば、つなげ方は無限大に広がると思っています。

「探索期」の子どもたちが、今どんなことに興味を持っているのかを可視化した「興味関心マップ」

滝デザイナー:これは、「探索期」の子どもたちが何に興味を持っているのかをまとめた「興味関心マップ」です。活動内容の管理方法をどうするか、探索期のチームで模索し続けて、編み出しました。

山口さん:だいぶ分かりやすくなりましたよね。「どこにいるんだろう?」とかも把握できるし、活動テーマが変わっていくことも可視化できるようになりました。

ー「未来デザインの時間」の時間を通して、子どもたちのどんな姿が見えてきていますか。
また、今後の夢や展望を教えてください。

滝デザイナー:人の数だけテーマがあるのが「未来デザインの時間」の面白さだと思っています。
必ずしも、ゆめの森に通う間に「創造期」の完成を目指す必要はなく、将来まで見通しながら、これからも子どもたちの試行錯誤をサポートしていきたいです

双葉郡には「ふるさと創造学」という言葉がありますが、ふるさとをつくっていくのは、子どもたち自身だと思っています。大熊町を知ることにとどまらず、自分の好きなことや興味を探究し続ける中で、子どもたち自身が地域との関係を見つけていくことが、大熊町のこれからにつながっていくと感じています。

「未来デザインの時間」の活動内容を展示するコーナー。さらに充実させていきたい

山口さん:この「未来デザインの時間」について、大熊町の地域の皆さんにも、もっと知ってもらえたらと思っています。

大熊町には、もともと「やってみたい」を応援してくれる土壌があると感じています。だからこそ、今の子どもたちが、自分の興味をカタチにする力や実現力を身につけていったとき、その一歩を後押ししてくれる大人や地域の存在が、きっと大きな支えになるはずです。

「未来デザインの時間」は、子どもたちの未来につながる学びであると同時に、町と子どもたちが関わり合っていくための土台でもあります。この時間の意味や取り組みが少しずつ共有されていくことで、子どもたちの挑戦を支えてくれる人が、地域の中に増えていったら嬉しいです。

(取材後記)

取材を通して印象的だったのは、「未来デザインの時間」が特別な授業として切り離されているのではなく、日常の学びや生活と自然につながっている点でした。
子どもたちの「好き」や「やりたい」を起点に、見守り、必要なタイミングで人や場とつないでいく。
滝デザイナーと山口さんの言葉からは、子ども一人ひとりの探究に寄り添い続ける、その具体的な関わり方が伝わってきました。
一人ひとりの探究が、やがて人や地域との関わりを生み出していく。その積み重ねが、未来を創っていくのだと感じさせられる取材でした。