学び舎ゆめの森の職員室前のオープンスペースに、子どもたちの声が広がります。1枚のホワイトボードにそれぞれが立てた問いを書き出し、友だちと見せ合い、語り合う社会科の授業。
「この問い、早く調べたいから家でもやってきます!」
「続きを調べたいから、休み時間もやっていい?」
「次の社会の授業、いつ? 早く来ないかな!」
そんな言葉が自然と生まれる学びの場をデザインしているのが、草野拓也デザイナーリーダー。ご自身の教育観の変化を「観の転換」と表現します。それは、子どもを“教える対象”から“学びをつくる主体”へと捉え直すことでした。
今回は、教育実践と学校運営の双方を担う立場から見る「ゆめの森の学び」について、お話をお聞きしました。

※学び舎 ゆめの森では、小中学校教諭を「デザイナー」、主幹教諭を「デザイナーリーダー(DL)」と呼んでいます。

プロフィール

草野拓也 デザイナーリーダー(主幹教諭)

高知県出身。小学校時代の担任の先生の「子ども一人ひとりに寄り添い、学ぶことの楽しさを伝える姿」への憧れが、教員を志した原点。学生時代は陸上競技そして剣道にも打ち込む。
大学卒業後から現在に至るまで、一貫して教員として勤務している。東京都の小学校で8年間勤務後、妻の実家がある福島県浜通り地域への転居を機に福島県の教員採用試験を受験し直し、令和2年4月に福島県川内村立川内小中学園へ着任。
主幹教諭への昇進に伴い令和6年4月に教育実践と学校運営の双方を担うデザイナーリーダー(主幹教諭)として学び舎ゆめの森に着任。マネージャー(教頭)の補佐を行いながら、デザイナー(教員)のリーダー的立場として学校運営に関わる。学校内の仕組みづくりやデザイナーへの授業力指導による学力向上の推進、時間割作成も含めた学校全体のスケジュール管理を担う一方、授業者としても現場に立ち続けている。
体育を専門領域としながらも、令和7年度は6年生の国語、1〜2年生の書写、4〜5年生の社会を受け持っている。

運命のような、ゆめの森との出会い

− 学び舎 ゆめの森との出会いを聞かせてください。

 川内村で教員として勤務していた時、「双葉郡小学校絆づくり交流会」に向けた担当者会議に参加しました。その際、大熊町の佐藤教育長とお話しする機会があり、その時思っていたことを率直に話しました。「もっと自由に授業を組み立てたり、いろいろやりたいことはあるけれど、カリキュラムが決まっていてなかなか抜け出せないんです」と。
すると佐藤教育長が、「教育課程を根底から問い直す覚悟で、子どもの学びを考えたらいいんだよ」とおっしゃって。そんな考え方もあるのか、と衝撃を受けました。
ちょうどその翌年、主幹教諭に昇進するタイミングで、学び舎 ゆめの森に配属になったんです。運命的なものを感じましたね。

ゆめの森に着任する前は、「言われたことをちゃんとできる子」、「教えられたことを全部こなせる子」を育てたいと思っていました。それが教師として当たり前だと思っていたんです。東京の小学校では、礼儀が人を育てると思っていたので、子どもたちには立ち止まってお辞儀をさせるような感じでしたね。保護者からは「先生って熱い男だよね」などとよく言われていました。
教師2年目には、統率の取れた学級経営ができているという実感がありました。他の学年や学級の子どもたちや保護者から「来年の担任は草野先生がいいな」とよく言ってもらっていたので、「今のやり方で合っている」と信じていました。実際、教師12年目までは、その教育観のまま突っ走ってきました。

でも、ゆめの森に来て、佐藤教育長、南郷GMのお話を聴いたり、子どもたちの表情を見ていたら、6ヶ月程で考え方が変わっていました。私の中で、教員として10数年かけて築いてきた教育観が180度変わってしまう、「観の転換」が起こったんです。

今だったらわかります。「言われたことをちゃんとできる子」を育てたかったのは、その方が自分が楽だったからだな、と。私が言ったことを子どもたちが全部やってくれて、レールから外れないでいてくれれば、短期的には安心じゃないですか。
言われたことを言われたとおりにできる力も、もちろん大切な力です。ただ、それ自体はゴールではなく、協働して何かを成し遂げたり、新たな価値を創造する力を育む過程の中で、結果として身に付いていくものなのではないか、と今は思っています。

改良を重ねている、自由進度学習の「進行表」。数ヶ月前のものと比べると、大きくアップデートしていることがよくわかる。

これまで見たことのないような、子どもたちの笑顔

−教育観が、どのように変わったのでしょうか。

全部が変わってしまった感覚なのですが、教育の捉え方としては、「子どもを教える」から「子どもに委ねる」へと大きく変わりました。
授業を例に取ると、以前は、教員である私がずっと話しているのが当たり前でした。ですが、ゆめの森の授業では、子どもが話し、子どもが問いを立て、子どもが自分で授業を進めていくんです。授業そのものが、子どもを中心に成り立っている感覚です。
そうした授業の中で、これまで見たことのないような子どもたちの笑顔と表情が見られます。「自分の問いを追いかける」時の表情からは、学びに向かうエネルギーを感じるんです。

子どもが問いを立て、子どもが主体となって進める授業デザイン

−子どもが問いを立てる授業とはどのようなものか、もう少し聞かせてください。

今年度私が担当している4〜5年生の社会科の授業では、単元のインストラクション(導入)で、デザイナーがテーマを提示するのではなく、子どもたち自身が「何を知りたいか」「何を調べたいのか」という問いを立てるところから始めます
子どもたち一人ひとりに大きめのホワイトボードを持たせて、自分の問いを書き出し、言葉にして、友だちと共有すると、「私もそれ気になってた!」「知りたいな!」など相互作用も生まれます。休み時間も調べ続けていたり、「テレビでニュースを見てこの問いが気になったので、家で調べてきました」という子どもがいたりと、自律的に学ぶ姿が見られています。
例えば先日も、「自然災害を防ぐ」という単元のインストラクションで、8人の子どもたちから合計30個以上の「問い」が挙がりました。「自然災害ってそもそも何だろう?」「富士山って噴火するのかな?」など。「問い」の内容は、あえて「何でもいいよ」というスタイルにしています。

−「何でもいいよ」とすると、学習指導要領として学ぶべきものと、ズレていってしまうのではないですか。

私は、むしろズレた時こそ、デザイナーとしての出番だと思っています。「これってどうなの?」「これ書いてるけど、これって何?」などと問いかけながら、単元のねらいに寄せていく仕掛けをしています。すると、子どもたち自身が考えながら、自然と目当てに近づいていくんです。
さらに言うと、全然、ズレていてもいいんです。今調べている「問い」に対して、自分の考えを持つことができればそれがゴールだな、と思っているので、ゴールが、何個あってもいいんです。
「テストで点数を取れる」という1個のゴールしかないのが今までだったとすると、今は、その子のゴールがどこにあってもいい、という考え方です。

子どもたちが「問い」を立てたホワイトボードは、他の学年やデザイナーの目に触れるところに展示。交流が生まれ、さらに学びが深まる

面白いのは、このやり方で、テストの点数がしっかり取れるということです。むしろ、今の授業方法の方が、自分で問いを立てて調べているので記憶にも残りやすく、自分でやりたいことを自分でやってくるので、理解の深さが違うと感じています。
東京で教えていた頃、「草野先生の授業で社会科が好きになりました」「社会が一番好きです」などと言われることが多かったんですが、今振り返ると、それは “テストで点数が取れるから好き” だったんです。
かつては、テストから逆算して板書を設計し、理解させる順番も、すべて教員である私が決めていました。「いかに完璧な板書を書いて、ノートに写させるか」が重要だったんです。
でも今は、私は板書を書いていません。子どもたちが、自分でホワイトボードに板書しているんです。
子どもたちには、「自分でレールを敷いてごらん」と伝えるようになりました。どこに向かうのか、何を知りたいのか、自分で決めていい。その過程を支え、学びとして成立させていくのが、私たちデザイナーの役割だと思っています。

「みんなで未来を紡ぎ出す」を実践する仕組み

− 学び舎ゆめの森の魅力は、どこにあると感じますか。

デザイナー全員で、すべての子どもを見ていくというスタイルが大きな魅力だと感じています。
ゆめの森では自由進度学習をはじめ、学校として決めた取り組みをデザイナー全員が一丸となって実践しています。
『「わたし」を大事にし、「あなた」を大事にし、みんなで未来を紡ぎ出す。』
という教育理念のもと、「子どもたちのために何ができるか」を共通の軸に、対話を重ねながらチームとして動いている学校だと思います。

「みんなで未来を紡ぎ出す」という理念をカタチにしている例として、今年度から「チーム担当制」の仕組みが始まりました。「担任」という言葉には、どうしても “一人で担う” というニュアンスがあり、チームで子どもを見る関係性を表す言葉として、「担当」と表現しています。例えば、3・4・5年生を、複数のデザイナーで見る、といった形です。
これまでの学校現場では、「担任の先生が、自分のクラスは自分で見る」という考え方が当たり前で、どうしてもクラスごとの比較が生まれやすい構造がありました。でも、ゆめの森では「どのデザイナーにも相談していいよ」と子どもたちに伝えていて、チーム担当のデザイナーはもちろん、それ以外のデザイナーとも日常的に関われる環境があります。一人のデザイナーが抱え込むのではなく、みんなで子どもを見ていける環境です。

教科についても同様で、4月に担当教科をデザイナー同士の対話の中で決めているんです。小学校では担任が全教科を教えるのが一般的ですが、ゆめの森ではそれぞれの専門性や強みを活かし、「この学年の体育は私が持ちます」といった形で対話しながら分担します。このような仕組みがあることで、デザイナー同士も相談や共有がしやすくなります。

職員室前に畳を敷き、授業スペースを新設。「わたしんち」と呼び、レイアウトに改良を重ねている。

また、私はデザイナーの皆さんに向けて、授業の実践共有にも工夫を加えていて、職員室前に畳を敷いた授業スペースをつくって、オープンな空間で授業をしています。
私の授業では、どの教科でも体を動かす遊びやゲーム性を取り入れたり、音楽を流すなど「何が始まるんだろう」というワクワク感の演出や、「やってみたい」「やってよかった」「またやりたい」と子どもが思える授業づくりを目指して色々と試して授業をしています。職員室前で授業をすると、その様子を見たデザイナーから「さっきの授業、どうやっているんですか?」「さっき子どもたち、すごい楽しそうでしたね!どうやってたんですか」とすぐ声をかけられ、私の授業での実践をその場ですぐに共有できるんです。
こうすることで、実践が個人の中で閉じず、ゆめの森全体に広がっていく感覚がありますし、「チームで支える」という安心感によって、「子どもに委ねる」学びにも、思い切って挑戦できると思います。

これまでゆめの森に関わって来られた方々が築いてきた教育観を、私は「ゆめの森道」と呼んでいるんですが、その考え方を時代に合わせてアップデートし、仕組み化し、また更新し続けることが、私の役割の一つだと思っています。

− これからの時代に必要な力、また今後の展望について教えてください。

30年先を見据え、子どもたちが将来、自ら考え、選択し、行動できる力を育むために、子ども主体の学びをさらに充実させていきたいと考えています。そのためには、教員自身も学び続け、子どもとともに成長し続けられる学校でありたいと思っています。

視察に来てくださった他校の教員の方から、「この学びは、ゆめの森以外でもできますか」と聞かれることがあります。私は、できると思っていますし、この実践や考え方を、ゆめの森の外にも広げていけたらと考えています。ゆめの森の中だけで完結させるのではなく、教育に関わる多くの方と共有しながら、「子ども主体の学び」が広がっていく未来を創っていきたいと考えています。

取材後記)
「私は、ゆめの森にハマったんです」と笑って話してくださった草野デザイナーリーダー。
夜中にふと授業に関するアイデアが浮かんだり、児童の実態に合わせて学習環境も、日々改良しているそうです。そのアイデアの源をたずねると、「いつも子どもの顔が思い浮かびます。これをしたらどんなに喜ぶかな、と。」と教えてくださいました。子どもの姿を起点に、「観の転換」を行動に移す——その行動力は、授業づくりにとどまらず、学校全体の仕組みや文化づくりにつながっているように感じました。
子ども主体の学びを“個人の実践”で終わらせず、“学校の在り方”として根付かせていく。
ひらめきを仕組みに変えていく実践の積み重ねが、ゆめの森の学びを形づくっているように感じました。