本日ここに、帰還、開園、入園入学、転入、新年度の始業を祝う「始まりの式」を迎えられたこと、原子力災害に直面した私たちとして感無量であり、帰還へ向けご尽力いただいた全ての皆さまと、12年の永きにわたって支えてくださった全ての皆さまに厚く御礼申し上げます。

 こども園・義務教育学校の園児・児童・生徒の皆さん、入園・入学・転入おめでとうございます。心から歓迎します。また、これまで大切にお子様を育んできた保護者の皆さまにもお祝いを申し上げます。

 ゆめの森に集った26人のかけがえのない「わたし」の物語がいまここから始まります。

 ゆめの森は、ひとりひとりの「好き」と「なぜ?」から始まります。人は誰しも純粋な好奇心のかたまりです。4歳児は、毎日73個の質問をすると言います。しかし成長するにつれて、人は問うことを忘れ正解を答えることばかりに気をとられてきたのです。大熊の真の復興、平和な世界の創設、美しい地球の守り方。大事なことの正解は教科書には書いてありません。問うことを忘れなかった人々が時代を創ります。「好き」と「なぜ?」を発見と創造の出発点とし、あそびと探究の枝を伸ばし、葉をしげらせ、夢の花を咲かせる大樹となるのです。どちらへ枝を伸ばしてもどんな花を咲かせても良い。きみは自由です。

 ゆめの森は、もっとも優しい場所になります。原発事故を経験した私たちは、たくさんのぶつかり合いを目の当たりにしてきましたが、それ以上に、私たちの学校を受け入れてくれた会津、河東の皆さんをはじめとした、多くの方のあたたかさを知りました。あの震災を経験した私たちは、この帰還した大熊町から、もっとも優しい社会を創り出していきたいと願うのです。ひとりひとりの夢の苗木は「かけがえのない」存在です。君が枝をどちらに伸ばすのも自由であるのと同じように、友達もまた、枝をどちらに伸ばすのも自由です。枝がぶつかり合った時は対話を重ね、互いの自由を認め合い、伸ばし合う道を探しましょう。0歳から15歳、色々な個性を持つ仲間がともに過ごすこのゆめの森から、多様性を力に変えて、多様な大樹が生い茂る森を、互いの自由を承認しあう、もっとも優しい社会を創っていきましょう。

 さらに。ゆめの森から、みんなの物語を紡ぎ出します。いま君の目に、大熊町はどう見えていますか。更地に見えるあの場所には、たしかに建物が、暮らしが、笑顔が、営みがありました。この地が大野村、熊町村と呼ばれていた時代から。さらには標葉と呼ばれていた時代から。おいしいものも楽しいお祭りも伝統の踊りも、何百年も重ねられた今日というかけがえのない一日があったのです。目を凝らしましょう。耳を傾けましょう。あの時に何があったのか。たくさんの大熊町と出会いましょう。そこから始めましょう。地域の皆さんとともに、新しいみんなの物語を、大熊の物語を紡ぎだしていきましょう。

 保護者の皆さま、地域の皆さま、これは私たちの新たな公教育創造への挑戦です。知識の暗記だけではない深い学び、個別最適な学び、能動的市民による民主的な理想の社会の創設、学校と地域社会の共創による内発的で創造的な地域の実現。大熊から、全国に先駆けた学びの変革を進め、学校から真の復興に寄与していこうと、本校・本園教職員は妥協せず対話を重ねています。我が学び舎の神髄は「哲学する学び舎」です。教職員も真理を求め探究しています。どうか、学び舎 ゆめの森の物語をあたたかく見守り、お支え頂きますようお願い申し上げます。

 結びに、本日ご臨席いただきました全ての方に御礼申し上げますとともに、大熊の空にひとりひとりの夢の大樹が腕を伸ばし、大熊の地に大輪の夢の花が咲き誇ることを願い、挨拶といたします。

令和5年4月10日   大熊町立 学び舎 ゆめの森 園長・校長 南郷市兵